けせらせら

なるようになる?

あの二人

 

私は目を疑った。暗い部屋の中 枕元であなたが使うスマホの明かりが眩しくって起きた私は寝ぼけたふりをしながら彼に抱きついてそれを覗いた。夢でもなんでもなかった。あの女からの通知があった。「うん もう、大丈夫だよ。」その言葉全部を信じていたわけではなかったし 人に二度となんてのはないんだってこともちゃんと分かっていて そのつもりだった。「ねえ何も思わないわけ?」彼がインスタグラムに載せたあの女との写真を見て友達は怒鳴るように私に迫った。何も思わないわけない 嫌じゃないはずがない だけどそういう付き合いは大人になれば普通なんだと思っていたし それで腹を立てるなんて何だか子供みたいで馬鹿馬鹿しい そんなことを自分に言い聞かせてきた。でもそれくらい と口に出そうとしたけれど 言葉が喉の方に詰まって出てこないまま しばらくしてそれを追加で頼んだレモンサワーと一緒に流し込んだ。「あの二人、仲良いよね。」 なんて答えると何だかとても惨めな気持ちになって それからは何も話さなかった。私はあの人の彼女だ 少なくとも今はそう この前だってふたりで と涙が溢れないように言葉を蓋にして次々言い聞かせる。考えてみれば当時 彼とまだ付き合っていなかった頃「あの二人、できてるよね?」なんて周りから茶化された時には 彼は少し嫌そうな顔をしてみせて 私は私で黙ったまま 顔を赤くしたものだった。なんとなく 怒る気にも 否定する気にもならなかった。私にとって何よりそれが嬉しかったのだ。あの日 彼にあの女との関係を問い詰めたとき 黙って話を聞いたまま 何も言わないあなたがすごく嫌だった。「あなたがいてくれるなら他に何もいらない。」 そんなことを言ってしまう私も私でなんか嫌だった。